三十代の女性と六十代の男性が車に乗って重ねるデート。二人の微妙な恋愛模様が浮かび上がってくる芥川賞受賞作。
表題作の「しょっぱいドライブ」は主人公の一家に常に金をたかられている九十九という老人と三十代女性の物語である。
この作品で目を引いたのは女性の心理の描き方だ。主人公が九十九に求めるのは、感情や生活といった現実的な心の安定であり、その様は何とも打算に満ちている。そして九十九と関係を持ちながらも実はむかしの男のことを忘れられない。
乱暴に要約すれば、妻という立ち位置と、恋人という立ち位置の間に揺れ動いているという状況だ。
そういう観点からすると、この作品は、いかにも三十代女性の話としてはふさわしいだろう。「しょっぱいドライブ」というタイトルがうまく生きた設定と言える。
だけど、その展開や構図は、いかにも芥川賞を狙って書かれているという気がして、読んで僕は興醒めしてしまった。それに僕が男性のためか、この種の設定は構図的にはおもしろくとも、心に訴えるものをほとんど感じることができなかった。
個人的には、まだ併録の「タンポポと流星」の方が楽しく読めた。ただし比較級の話でしかなく、二人の女性の微妙な関係の様がそれなりにおもしろかったもののそれ以上ではない。
この作品集は単純に僕とは肌が合わなかったようである。
評価:★★(満点は★★★★★)